主婦の休業損害

Q.私は専業主婦をしています。先日、交通事故に遭い入院しました。
退院後も、怪我の調子が思わしくなく、この間、家事が十分にできず家族に負担をかけてしまっています。交通事故の被害に遭った場合、加害者に対して、休業損害の損害賠償請求ができると聞きましたが、私のような専業主婦でも休業損害を請求することは可能でしょうか?
可能だとした場合、家事ができなかったことについての損害金額はどのように算定されるのでしょうか?

A.専業主婦であっても、休業損害は認められます。交通事故事件の実務では、「家事労働も財産上の利益を生じさせるもの」と考えられております。

 家事労働に専念する主婦であっても、交通事故による怪我のために家事労働ができなかったときは、休業損害を請求することができます。

 専業主婦の休業損害はもちろん認められますが、パートで働いている兼業主婦であっても、認められることがあります。

家事従事者の休業損害が認定された裁判例

 家事従事者の休業損害は、専業主婦、兼業主婦、男性の家事従事者でそれぞれ休業損害が認められた判例があります。

専業主婦の裁判例1(大阪地判、平成13年1月25日)

 48歳の専業主婦が、事故によって右上肢機能障害等の後遺障害(後遺障害等級7級)の後遺障害を残したケースにおいて、賃金センサス学歴計45歳から49歳の平均賃金を基礎に、事故当日から症状固定まで556日間、完全な休業を要したとして約600万円の休業損害を認めた。

専業主婦の裁判例2(東京地判、平成13年9月5日)

 61歳の専業主婦が、事故によって外貌醜状、顔面頭部神経症状、目瞼運動障害、歯牙障害等の後遺障害(後遺障害等級6級)の後遺障害を残したケースにおいて、賃金センサス学歴計60歳から64歳の平均賃金を基礎に、入院137日と通院179日の合計316日は100%、その余の794日は50%の範囲で休業損害を認めた。

兼業主婦の裁判例1(名古屋地判、平成11年4月28日)

 53歳の主婦兼パートタイマーの兼業主婦が、事故によって、右下肢の神経症状(後遺障害等級12級)を残したケースにおいて賃金センサス学歴計50歳から54歳の平均賃金を基礎に、入院期間97日は100%、その後症状固定まで288日は70%の休業損害を認めた。

兼業主婦の裁判例2(京都地判、令元年9月27日)

 複数のクリーニング店を経営する夫と共に生活し、そのクリーニング店の業務に従事しながら家事にも従事していた77歳の女性が事故によって右肩関節痛などの後遺障害(後遺障害12級)を残したケースにおいて、賃金センサス学歴計70歳以上の平均賃金を基礎に入院52日は100%、その後リハビリ終了まで160日は50%、その後実質的な症状固定日までは25%の範囲で休業損害を認めた。

男性の家事従事者の裁判例1(横浜地判、平成24年7月30日)

 妻が正社員として働き、自身が専業主夫として一家の洗濯、掃除、炊事等の家事に従事していた52歳の男性が事故によって右手関節の機能障害の後遺障害(後遺障害等級10級)を残したケースにおいて、賃金センサス学歴計全年齢平均賃金を基礎に入院46日間は100%、通院訳4年間は25%の範囲で休業損害を認めた。

男性の家事従事者の裁判例2(大阪地判、平成11年2月18日)

 入退院を繰り返していた妻および娘と同居し、家事の多くを分担していた81歳の男性が、事故によって後遺障害等級7級の障害を残したケースにおいて家事労働を月額18万円と評価し、事故日から76日間は100%、それ以降症状固定まで1008日は平均して75%を休業損害として認めた。

主婦の休業損害の計算方法

 主婦の休業損害の計算方法には、原則として1日分の金額を5700円ないしは6100円として計算する方法(自賠責基準)や、賃金センサスを用いて計算する方法(裁判基準)など複数の計算方法があります。

賃金センサスを用いた裁判基準

 賃金センサスを用いた裁判基準では、厚労省「賃金構造基本統計調査(賃金センサス)」に基づいて、原則として事故が発生した当時の学歴計、年齢計の女性平均賃金を年収とし、これを365日で割った金額が家事労働の日額給与額として用いられます。

 令和2年の例を参考にすると、令和2年における学歴計・女性全年齢平均賃金は381万9200円ですので、令和2年における日額給与額は1万0463円(381万9200円÷365日=1万0463円)となります。

自賠責保険の基準

 他方、自賠責保険の基準では、2020年4月1日以降に発生した事故については、日額給与額が一律6,100円であるとして計算されます。

 ただし、自賠責保険には治療費や慰謝料を含めて120万円までという限度額があります。

 上記のとおり、裁判基準と自賠責基準では主婦の休業損害を計算する上で用いられる日額単価が異なります。

 さらに、自賠責基準では、原則として通院日数が休業日数とされますが、裁判基準では、受傷した外傷名、入院、通院の別、通院頻度、医師の意見によって認められる休業日数が変わります。

主婦の休業損害の計算は弁護士に相談を

 主婦の休業損害の計算は専門的な知識と交通事故案件に関する十分な経験がなければ困難であると思いますので、ご自身の休業損害が気になる方は、上大岡法律事務所までお問い合わせください。


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